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絶頂
生まれて初めて、女性とお付き合いしたのは、地元を離れ、東京にある大学に入学してからです。
周囲に比べても遅かったと思います、自分の中では結構なコンプレックスでした。
そのころはまさか自分が、こんなにもたくさんの、波乱万丈な恋愛をするとは思っていませんでした。
大学に入学し、一人暮らしを始めた僕は、大学でも大きなサークルに入部しました。
どちらかというと体育会系の要素が強い、昔ながらのスポーツサークルという感じでしたが、たくさんの人数で、元気に楽しく運営している様子にひかれ、そこに決めました。
親切で優しい先輩と、楽しい同期に恵まれた僕は、サークル生活を満喫し、キャンパスライフをスムーズにはじめられたこと、これから待っているであろう楽しい日々に思いを馳せ、毎日がハッピーだったのを覚えています。
サークルに入部して数週間たった、ある日のこと。
サークルの部内戦(サークル内の試合)のため、その日はサークル総出で運営の作業がありました。
一日が終わり、シメのミーティングまでの待ち時間のこと。
2つ上の先輩、ユウコ(仮名)が声を掛けてきました。
「おつかれさま〜」
「あっユウコ先輩おつかれっす」
ユウコは、サークルの中でも人気がありました。
僕の同期の中では、実際にユウコのことを好きな奴もいました。
僕はといえば、まともに話をしたのはその時が始めてだったので、何となく戸惑ったのを覚えています。
「このサークルは慣れた?」
「はい、おかげさまで」
「キョウ君ってさ、○○出身なんだよね?私行ったことないんだ〜、話聞かせてよ」
それから、とりとめもない話をしましたが、なんだかすごく感動して聞いてくれて、心が揺れ動きました。
それから何度か、一緒にご飯を食べたりしました。
自分の中で、ユウコの存在は、完全に恋愛対象になってはいたのですが、なにせこれまで女性と付き合ったことがなかったので、相手の気持ちはわからないし、告白して振られるのもイヤだったので、
タイミングを図りかねていました。そんなある日、僕とユウコは、新宿で、何度目かのデートをしました。
ご飯を食べ、お酒を飲み、なんとなく…そろそろ帰ろうかと新宿駅の構内を歩いてた時、
ユウコが僕の手を握ってきて、僕の瞳を真っ直ぐに見詰め、言いました。
「・・いつになったら、言ってくれるの?」
「えっ?!何をっすか?」
・・正直、まだこの時は、慎重だったんです。これで告白して、違う意味だったらどうしようという気持ちも、自分の中にはありました。
でも、次のユウコの一言で、何か、自分の中でスイッチが入ったような気がしました。
僕は一生、このセリフを忘れることはできないと思います。
「…女の子から言わせるのは、ずるいよ」
お詫びと告白を経て、僕は生涯初めてのお付き合いをスタートさせることとなりました。時間は日を跨いでいたのを覚えています。その日は、ユウコが電車に乗るのを見送り、帰途に着きました。
それからの毎日は、全てが新鮮で、本当に楽しかったと思います。
僕達は、2人とも一人暮らしだったので、毎日を一緒に過ごしていました。一緒に料理をしたり、掃除をしたり、弁当を作って公園に行ったり、部屋で飲んだくれてみたり…学生だからお金はなかったし、出来ることは限られていたけど、全てが本当に幸せでした。
世間のバカップルと呼ばれる人たちがするようなことも、大体したと思います。僕は初めての恋に、周りが見えなくなるくらい、心底、没頭しました。
大学生活始めての夏季休暇を利用して、ユウコ実家にも連れて行きました。地元の幼馴染に、綺麗な彼女を紹介すること、また彼女に自慢の友人達を知ってもらうことは、僕の優越感を少なからず満たしてくれました。
僕らは、「毎日が”同じように”幸せな日」を貪っていました。
そんな生活を続けていた、大学2年の夏、終わりは突然でした。
いつものように、本当に代わり映えのしない日常の中、ユウコは「もう、やめよう」と言いました。
ただ一つ、いつもと違っていたのは、ユウコがそれ以降ずっと泣いていたことくらいでした。
ユウコは当時大学4年生でした。時代は氷河期の真っ只中で、就職活動が思うようにいかないことで、プライドの高い彼女は、精神的にも不安定になっていました。
そんな中で、日々を楽しむことにのみ一生懸命な、年下のオトコと、マンネリ気味な日常を過ごしていくのは不安だったに違いありません。
僕自身、初めての恋愛も落ち着き、自分のオトコとしての可能性…に興味を持っていた時期でもありました。
「いいよ。」
1年半弱でしたが、毎日一緒で、あんなにたくさんの言葉を交わしてきて、いろんな思い出を積み上げて来ても、一回の言葉のラリーで、二人の関係は幕を閉じました。
僕がこの恋愛を通して知ったこと。
人と気持ちを通じ合わせることができたときの、喜びとか、カラダが重なる幸せとか、寝顔の可愛さとか、怒った相手をなだめることの大変さや、くすぐったいような嬉しさとか。
終わるときのはかなさとか。
ホントにたくさんのことを教えてもらいました。
「想いを引きずってしまうことの苦しさ」は余計でしたけど。でも、それを振り切ることの大切さを学べましたし。言えなかったけど、今でも、彼女には感謝しています。
--その後--
ユウコから、急に電話をもらったのは、それから大分経って、僕が大学4年生になる少し前のことでした。
「結婚するんだ」
彼女の言葉は、それ以上のことを言いたげでした。
「そうなんだ。おめでとう。誰と??俺の知ってる人?」
「…知ってる人だよ」
「へえ、誰〜?」
ユウコの口から出てきたのは、僕の地元にいる、僕の幼馴染の名前でした。
付き合っているときに、地元にユウコを連れて行ったことがきっかけになったのです。
「びっくりした?」
「…びっくりしたよ…」
「ごめんね、あの人がどうしても自分からは言えないって」
「そっか…なんか気ぃ使っちゃってるのかな、俺から電話しとくよ」
「ありがとう、よろしくね」
これが彼女と僕との、最後の会話です。
結婚以降、今でも幼馴染とは仲良くしていますが、お互いの暗黙の了解で、彼女はその姿を僕の前に出すことはありませんでした。
結局伝聞になりますが、彼女は一昨年離婚し、子供をつれて実家へ帰ったそうです。
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